監督メッセージ/message/

大人と子供は、まるで別の考えを持つ生き物のように見えて、
親と子の間には、決して分かり合えない深い溝が横たわるように見えて、
きょうだいは、互いに嫉妬し競い合うのが定めのように見えて、
しかし果たして、それらは真実なのだろうか。

この映画は、「兄妹」の物語である。
幼い男の子に妹ができる。
喜んだのもつかの間、両親の愛を奪われ、どうしても妹を受け入れることができない。
しかし不思議な庭で、幼い頃の母や若い頃の曽祖父と奇妙な出会いを果たし、
さらに成長した未来の妹と奇想天外な冒険を繰り広げることで、
男の子の心は変化し、最後には、妹の兄としてささやかな成長を遂げる。

子供と、その親の子供時代は、時代こそ違えども、
じつはきれいな相似形を成していることに気づく。
あれだけ反発した親と全く同じ言葉を、
親になった自分が子どもに言ってしまっていることにハッとなる。
果てしない子育ての苦労は、実のところ、
自らの子供時代の視点を変えた生き直しなのかもしれない。
親、自分、そしてその子。
時を超え世代を超えて私たちに引き継がれているものとは何か?
繰り返しながら人の一生が連なっているさまは、
永遠に続く生命の営みの、 やはり相似形なのではないだろうか。

家一軒と庭一つ、それからどこにでもあるたった一つの家族を通して、
生命の大きな循環、人の生の織り成す巨大なループを描き出したい。
最小のモチーフを用いて、最大のテーマを語り切りたい。
エンターテインメントの作法を用いて、
新しい家族のための、新しい表現を拓きたい。
一見して穏やかに見えて、
実は、大いなる野心を秘めた作品なのです。

細田守